株式会社BEC CEO 日記

「Gozal」を運営する会社での日々

SaaSにおけるカスタマーサクセスの現場での話

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カスタマーサクセスは、SaaSプロダクトにおいてはとりわけ重要性が高い存在である。顧客がプロダクトを活用して、成功を手にすること。それができなければ、解約を通知されることになる。

 

 

SaaSにおける解約(Churn)の意味

SaaSにおいて解約が発生してしまうということは、その顧客が望んでいた成功体験を得られず、SaaSプロダクトを活用するというプロジェクトが失敗に至ったと考えても差し支えない。

 

顧客はそのプロダクトを使うことで、何も得られないばかりか一定期間無駄に利用料と時間と労力を支払ってしまったことになる。さらに顧客の担当者は、社内で「くそプロダクトを導入した張本人」としてマイナスの印象が伝染した状態になってしまうリスクすらもある。

 

ベンダー側においても、通常顧客を獲得することに要したマーケティングコスト・セールスコスト・導入サポートコストなどのコストを、毎月のサブスクリプションフィーで回収するまでに数ヶ月かかるため、解約時期によっては、財務的に赤字である。

 

さらにはアップセル・クロスセルなどの可能性も失われることになる。お客様の声としてサイトに載っていただくことも無理だろう。導入事例として、セールス活動をより効果的にすることも、継続して利用していただいた場合に得られるであろう様々な学びも、そして何より顧客に貢献することで得られるあの喜びも、もう得ることはできない。

 

そう、カスタマー(顧客)がサクセス(成功体験)を実現できなければ、すべてのプレイヤーにとっての最悪の事態が、事実として確定してしまうことに直結するのだ。

 

 

カスタマーサクセスが醸し出す「未実現の価値」

SaaSのビジネスモデルは、つくづく顧客からの信頼と愛で成り立っている。そのことを理解する必要がある。間違いなく、顧客から継続して利用していただくことが収益構造的にも、学習構造的にも、チームモチベーション的にも絶対的に重要であり、その継続利用という結果は、顧客からの信頼と愛以外からもたらされることはありえないからだ。

 

KPIとしてMRRやChurn Rateで追いかけることは当然重要ではあるが、現場の顧客ユーザーが、提供されたプロダクト・サービスから体験しているすべてについて、何を考えているのかを追いかけることも同時に重要である。

 

顧客は満足してるのか、不満なのか、そしてその感情はどの機能・どの画面・誰のサポートについてのものなのか。そういった情報をしっかりと感じ取り続けていく必要がある。

 

そして顧客の感情がしっかりと理解できれば、自ずと顧客が実現したい成功体験が何なのかを理解することができる。「そうか顧客はこういう体験をしたいのか」と。その情報をチームに伝え、実現のためのプロダクトを作り上げ、顧客に適切な説明を行う。顧客は成功体験を得られ、解約の2文字を突きつけることはしばらくないかもしれない。

 

何より顧客の感情を理解して、顧客における成功体験を創出することに全力を注いで、やりきった経験というのは、顧客に対して単なる機能の提供では止まらない満足度を提供できる。

 

「このチームはこれから先も全力を注いでくれる期待が抱ける」と。

 

とてもつもなく重要なのはその感情だろう。実はカスタマーサクセスが果たすべき役割というのは、顧客に成功体験という事実を実現させることだけではない。これから先の将来においても、成功体験を生み出し続けてくれるだろうという未実現の価値に対する信頼を感じていただくこともとても重要だ。

 

 

カスタマーサクセスに突きつけられる難問

どんなSaaS企業でもトップラインを伸ばすことは重要視され、セールスに対する期待は当然大きい。一方で、セールスが契約を結んだ顧客が、プロダクトによって成功し続けて、常に決定できるはずの解約というオプションを行使しない状態に維持することは、SaaSにおいては超重要だ。

 

そしてカスタマーサクセスには時に答えが難しい問いに対峙する瞬間も訪れる。

・ユーザーにやってもらうか、代行するか

・どこまでアクティブフォロー(自発的なサービス提供)をするか

・サポートしている立場として機能開発の優先順位を開発チームにどのように伝えるか

・目の前のユーザーか、その先のまだ見ぬユーザーかどちらを優先するか

 

これらの問いに対して、常に悩みながら、他のセクションと本音の対話をしながら答えを出す。もちろん答えは状況やボトルネックによって常に動くものである。

 

カスタマーサクセスの難しい部分として、再現性を創出できるように自らを標準化していくということもある。カスタマーサクセスとしての能力を高めて、職人芸のレベルまで達したとしても、一人ですべての顧客をサポートすることは現実的に難しいケースがある。その時に備えて、業務を標準化して、チーム全体の平均能力を高めていくことは、当然求められる。

 

とはいえ標準化には限界があるのも、カスタマーサクセスの面白さでもある。顧客にとって、「相談しやすい」というのはチャットツールのUIが優れていたり、相談ボタンがわかりやすい場所にあるという要素もあるだろう。ただ、絶対的に重要な要素は「担当者が信頼できて、相談できる感を醸し出している」ことでしかない。

 

相談できる感というのは、実にartisticな世界である。あえて抽象化して、相談できる感が発生する要件を定義していったとしても、普段の何気ないコミュニケーション一つ一つの細かい部分はどうしても詰めきれないし、そこまで管理を強化すること自体が、カスタマーサクセスとしての主体性を奪い、ガチガチのマニュアル対応になってしまうリスクもはらんでいる。

 

それに顧客との相性というものもあるため、万能・完全なるカスタマーサクセス担当者は存在しえないという腹積りでいた方が驚きは少ないかもしれない。

 

 

カスタマーサクセスとしての成否を分ける要素とは何か

これは実に難しい論題である。

なぜならフェーズ、ボトルネック、顧客性質、ビジネスモデルなどの変数によって場合分けをして捉えるべき問題だからだ。

 

だが、あえて自分の経験上確信していることは、カスタマーサクセスが成功するために少なくても必須の意識とは「顧客のPLを改善する」というマインドセットだ。

 

PLというは損益計算書のこと。

 

もっともシンプルな成功体験とは、顧客が利益を創出することであり、その利益のもっとも測定しやすいデータこそPLの値である。

 

「目の前の顧客がどうすれば利益を生み出すことができるのだろうか。」という思想の元で、判断・行動を連続していくことができれば、あとは自然と顧客の成功体験につなげていくことができる。

 

何かに迷った時には、そのマインドセットに立ち戻るべきだろう。

当然だが、そのマインドセットだけでカスタマーサクセスを制することができるほど甘くはない。だが不可欠な要素とは言えるだろう。

 

かくいう我々もクラウド労務管理サービス「Gozal」を運営しているが、まだまだ顧客に完璧なサービスを提供できているとは言い難いし、やるべきことはまだまだたくさんある。

 

自戒の念を込め、日々の学びを整理する意味で、本稿とする。